合同会社代表者の肩書は「代表取締役」でもよい!
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株式会社の代表者は「代表取締役」であり、登記簿にも「代表取締役」と表記されます。
他方、合同会社の代表者は「代表社員」であり、登記簿にもそのように記載されます。この「社員」とは出資者のことなのですが「従業員の代表であるかのように勘違いされないか心配だ……」と、肩書に悩む代表者の声を聞くことがあります。
そこで、名刺やホームページに「社長」や「代表取締役」と記載してもいいの?という代表者の肩書と、付随する問題として合同会社の機関に関する疑問にお答えします。
目次
合同会社代表の肩書について
代表者の肩書に法律上の決まりはない!
結論から言うと、合同会社の代表者であっても「社長」や「代表取締役」と名乗ることができます。なぜなら、肩書の使用について法律の規制はないからです。
「社長」は会社の機関の名前ではありません 1し、代表取締役以外の者が「代表取締役」を名乗ることを禁止する規定もありません。
ですから名刺やホームページ、さらには契約書に記載する代表者の肩書も、基本的には自由に決めることができるのです。実際に代表者が「代表取締役社長」を名乗っている合同会社を見たことがあります。
ただし、どんな肩書にしても登記簿には「代表社員」と記載されます。登記簿の記載は法律上決められているからです 2。
決まりはないが、定款に定めるべき理由
しかし、規制がないからと言って好き勝手に肩書を名乗ると「どういう権限を持っている人なのか?」「社内でどのくらいの立場の人物なのか?」が分からず混乱をきたしたり、信用を落としたり、社内外でのトラブルの原因となりかねません。
そこで、代表権限を持つ人の肩書(役職)や組織の仕組みは、定款で定めることをおすすめします。
定款はいわば会社の憲法であり、会社の組織や活動の基本を定める会社の根本的な決まりです。
「どういった役職を設け、どのような権限を持たせるか、それによってどんな会社にしたいのか」を形にしたものが定款であり、代表者の肩書も組織の重要な要素ですから、定款で明確に定めるのが望ましいと考えます。
合同会社代表者の肩書の具体例
- 代表
- 社長
- 職務執行者社長
- 代表職務執行者社長
- 代表執行役員社長
- 代表職務執行役社長
- 代表社員職務執行者
- CEO(Chief Executive Officer)
- 最高経営責任者
いずれも実際の合同会社で使用されているものです。
なお、個人の肩書は自由ですが、会社ではないのに「○○会社」と名乗ったり 3、合同会社なのに「株式会社××」と記載するなど別の会社形態と誤解させるようなこと 4は法律で禁止されています。違反すると100万円以下の過料(いわば罰金)を科されてしまいます 5。
合同会社の機関について
合同会社にも代表取締役は置ける!
誤解されている方も多いのですが、定款で定めることで、合同会社にも「取締役」や「代表取締役」「監査役」などの機関(組織)を置くことができます。
一定の機関設計が法律で義務付けられている株式会社 6と異なり、合同会社に必ず置かなければならない機関はありません。
つまり、合同会社は社員総会、取締役、取締役会、監査役等の機関を置く必要はありませんが、逆に言えば、定款の定めを置くことでこれらの機関を置くこともできるのです 7。
会社法577条「…持分会社の定款には、…この法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができる」
例えば、業務執行社員を取締役、代表社員を代表取締役とする定めを置いたり、監査役や監査役会を置いたりすることも可能です。
自由な設計が合同会社の魅力!しかし……
上記の通り、機関設計のパターンが限定されている株式会社に比べて、合同会社は柔軟な機関設計をすることができます。
迅速な判断・行動が可能な少数精鋭の経営も可能なら、監査役を設置してコンプライアンス重視の姿勢をアピールする機関設計も可能です。小さな会社から大きな会社まで実情に合わせて、機関設計を含めて自由な定款作成ができるのが合同会社の魅力の一つと言えるでしょう。
しかし、自由だからこそ、会社設立時には将来起こり得るあらゆる事態に対応できる定款(機関設計)を作成することが必要となります。
なぜならば、法定外事項について問題が生じたとき、解消のための手続や判断基準を定款に定めていなければ迅速・円満な解決ができず経営に支障をきたすおそれも出てきます 8。
さらに、合同会社の定款変更は、原則として総社員の同意が必要です 9。したがって、不利益を被る社員がいるときは定款変更の同意を得ることが大変であり、問題が生じてから解決のための手続を定めるのは困難でしょう。
最初に「理想の定款」を作成することが肝心なのです。
合同会社設立は専門家に相談を
合同会社の代表者の肩書から会社組織の話をしてきましたが、どちらも定款が重要です。
問題が生じてからの定款を変更するのは困難を極めるケースもあるため、予め「理想の定款」を作成しておくことが必要になります。
「理想の定款」を作成するためには、会社の実情を把握するだけではなく、法律や判例についての知識も要求されます。
当事務所では、定款作成のサポートを行っています。印紙代4万円が不要となる電子定款の作成も承っております。
「こんな会社にしたいのだけど、どういう定款にすればいいのか?」
「今の会社の定款に問題はないだろうか?」など
気にかかることがありましたら、当事務所にお気軽にご相談ください。
参考文献
【 脚 注 】
- 会社法354条に「社長」という文言が出てきます。これは代表権のない取締役に「社長」と名乗らせていた場合、その取締役が善意の第三者と勝手に取引をしたとしても会社は取引の責任を負いますよ、という規定です。「社長」と名乗ってはいけないという規定ではありません。 ⮥
- 株式会社であっても同じことで「代表取締役」と登記されます。「社長」として登記されることはありません。 ⮥
- 会社法7条。 ⮥
- 会社法6条3項。 ⮥
- 会社法978条。 ⮥
- 例えば、株式会社には「取締役」と「株主総会」は必須で、「取締役会」を設置した場合は「監査役」等の設置が義務付けられています。逆に、「取締役会」がなければ「監査役」を置くことはできないようになっています。 ⮥
- 神﨑満治郎『「合同会社」設立・運営のすべて』((株)中央経済社、2014)5頁以下、131頁など参照。 ⮥
- 例えば、役職を解任したいときに要件、方法、報酬や責任について定めがなければ話し合いで決めなければなりません。スムーズに協議できればいいですが、こじれると大変です。 ⮥
- 会社法637条。 ⮥