合同会社の落とし穴1~社員は偶数にするな!~
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平成17年の会社法制定によって、新たに設立できるようになった合同会社。
株式会社と同じく社員は間接有限責任 1でありながら、株式会社よりも簡易・安価・迅速に設立することができ 2、組織形態の規制が緩く自由な経営が可能という特徴があります。
スーパーの「西友」や、iPhoneやiPadで有名な「アップル」も合同会社で、法務省の登記統計によれば平成27年の登記件数は22,223件と年々増加傾向にあります。
大企業から個人事業主の法人成りまで幅広く利用され、一人でも設立できると評判の合同会社ですが、大事なポイントを見落とすと設立してから「こんなはずではなかった…!」と後悔することも。
事例を通して、設立前に知っておきたい合同会社の定款作成の注意点を解説します。
目次
事例
夫婦で合同会社を設立したAさんの場合
Aさんは、10年前に脱サラして、お弁当やおかずをバイキング形式で販売するお総菜屋「オイシー惣菜」を、妻と2人で経営していました。
オイシー惣菜は、主婦や一人暮らしの若者の間で評判になり、売上も利益も伸びていったので、節税 3のために法人成りをすることにしました。
合同会社は手続が簡単で一人でも設立手続ができそうなので、インターネットで定款のサンプルを検索して良さそうなものを見繕い、Aさんと妻の2人を出資者(社員)にして、「オイシー惣菜合同会社」を設立しました。
オイシー惣菜合同会社を設立してから、従業員も2人雇って売上を伸ばしていき、経営は順風満帆に思えましたが…
事件は突然に起こります!
ある日の朝、Aさんが「今日の味噌汁は辛い」と言ったところ、妻が大激怒。お互い溜まりに溜まっていた鬱憤が一気にあふれ出したのか朝から夫婦大喧嘩となってしまいました。
それだけで済めばよくある夫婦喧嘩ですが、プライベートの仲違いを経営にまで持ち込んだのが不幸の始まり。
意地を張ってお互いがお互いの言うことに反対するものだから、惣菜の材料仕入れ契約を結ぶこと一つ取っても話がまとまらない。
しかも、お互い「絶対に合同会社の社員はやめない」と言うものだから、業務に関して何も決めることができず、経営が立ち行かなくなり、会社は倒産する羽目となりました。
※この事例はフィクションです。実在する一切の個人・団体とも関係はございません。
事例の解説
問題となる会社法の条文
会社法第590条1項 社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。2項 社員が2人以上ある場合には、持分会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定する。
何が問題だったのか
夫婦喧嘩が経営停滞につながり、会社倒産にまで至った原因はどこにあったのでしょうか?
ずばり、会社の実態に合わせた業務執行に関する定款の定めを置かなかったからです 4。
合同会社では、原則として、出資者=社員=役員となります 5。
そして、合同会社では、会社の経営方針を決定したり、運営のために契約をしたり、従業員を雇ったりといった業務執行を社員が行います。社員が2人以上の場合は、定款に定めがない限り、頭数の過半数(2分の1以上ではありません)の賛成で決定します。
したがって、社員が2人だけのときは、2人の意見が一致しない限り業務執行の決定をすることができないので、意見が対立すると経営が停滞するわけです。
仲良く意見が一致する(あるいは説得で解決できる)ときは即時に意思決定できるメリットがありますが、Aさんの事例のように感情的な対立が発生すると説得も難しく、運営は二進も三進も行かなくなります。このように業務執行の意思決定ができず経営が行き詰まることをデッドロックと言います 6。
どうすればよかったのか?
社員の数を奇数にする
2人であるがゆえにお互い過半数を取ることができなかったので、社員の数を奇数にすれば、(決議に参加さえすれば)必ず過半数で決することができます。
社員の数に制限はないので、1人加えて3人にする以外に、社員1人だけという選択肢もあります(1人会社で生じうる問題については次回)。
決議の要件を変える
社員1人1票ゆえに、社員2人でデッドロックが生じました。そこで、出資額に応じて票数を変える等、定款で決議の要件を変えることでデッドロックを回避する方法があります。
例えば、定款に「出資額100万円につき1票持つ」と定めておけば、A:400万円→4票、妻:100万円→1票となるので、Aの決定を会社の決定とすることができます。
出資額の他には、人によって票数を変えたり(例:妻の議決権は3票とする)、役職を置いて役職ごとに票数を変える等の方法があります。
ただし、定款の変更をするためには社員全員の同意が必要なこと(会社法637条)、平等な発言権が担保されないことから、意見対立が生じる前(できれば設立時)に対処する必要があります。
意見対立したときに議決権行使できる者を用意する
普段の業務執行は2人で行い、最終意見が対立したときに限って議決権を行使できる第三者(仮に「独立社員」と呼びます)を、定款で決めておけば、デッドロックを回避することができます。例えば、顧問弁護士や税理士などを独立社員に置くことが考えられます。
常に独立社員を置くことは難しい(報酬や独立社員役の負担など)ならば、社員1人以上の請求で臨時の独立社員を選任できる旨の定款を置くこともできるかと思います。
退社する・会社を解散する
合同会社は人的会社と言われ、社員(出資者)同士の信頼関係に基づく経営ができることが特徴なので、その信頼関係が破壊され修復困難と考えられるときは、退社する(社員をやめる・会社法606条)ことも一つの手段だと思います。
また、自分が退社しても会社の事業は継続されず引き継ぐこともできないと考えたり、ゼロからスタートしたいと思うのであれば、会社を解散するよう裁判所に訴える選択肢もあります(会社法833条2項)。
会社が解散すると、清算手続に入りますが、事業譲渡によって会社の事業を自分が引き継げる可能性があります(会社法650条参照)。
会社法第606条1項 持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合又はある社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合には、各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては、各社員は、6箇月前までに持分会社に退社の予告をしなければならない。2項 前項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。3項 前2項の規定にかかわらず、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる。会社法第833条2項やむを得ない事由がある場合には、持分会社の社員は、訴えをもって持分会社の解散を請求することができる。
最後に
合同会社におけるデッドロックとその解決策について書きましたが、デッドロックが起こってしまってから解決するには非常に骨が折れます。
トラブル解決よりもトラブル予防に時間と手間を割くことが、会社設立・運営においては重要です。トラブルが生じた場合の損害が大きい故に、結果的にコストが安く済むことが多いからです。
ご自身で会社を設立する場合でも、将来起こりうるトラブルを今の定款で予防できるのか、よくよく検討してから、設立することが大事です。
【 脚 注 】
- 社員(≠従業員)は、会社に出資する限度でお金を払う責任を負い、それを超えて会社の借金などを返済する義務はないということ。最初に出資金を支払えばそれ以上会社にお金を支払う義務はないということです。 ⮥
- 例えば、株式会社は公証費用や登記費用だけでも20万円以上掛かりますが、合同会社ならば登記費用6万円+諸費用で設立することができます。 ⮥
- 個人の所得税は所得が増えれば増えるほど税率も上がりますが、法人税は税率が一律なので、所得が多い場合は会社を作った方が税金が安くなることがあります。 ⮥
- 「夫婦喧嘩が原因では?」という声があるかもしれません。が、意見対立は夫婦仲に関係なく起こりうること、夫婦喧嘩防止の仕組みを事前に用意することは難しいこと、適切に対処すれば解決できるものを本質的原因と考えることから「原因」ではないと考えます。 ⮥
- 株式会社でも同様ですが、会社法に関しては「社員」とは従業員のことではなく、出資者(構成員、オーナー)のことです。 ⮥
- 合同会社に限らず株式会社で50:50の持株割合である場合や、契約で共同事業を行う場合にも同様の問題は発生し得ます。 ⮥