株式譲渡を承認できるのは誰?―譲渡制限株式会社
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「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を受けなければならない。」という定款の規程が存在する会社があります。
譲渡制限株式会社(閉鎖会社・非公開会社とも言う)と言われるもので、会社の同意がなければ、その会社の株式を売ったり買ったりすることができません。
「信頼できる人だけを株主にしたい」「知らない人が株主になって経営に口出しされるのを防ぎたい 1」という目的で利用され、大半の会社は譲渡制限株式会社であると言われています。取締役会を置く必要がなく、1人だけで会社が立ち上げられるのも(全株)譲渡制限会社のメリットの一つです。
では、社長が株主から「株式を売りたいから承認してほしい」と連絡を受けた場合、誰が承認をすればいいのでしょうか?社長だけで承認の可否を決めてもいいのでしょうか?
また、「これから譲渡制限株式会社を設立したい」という人が注意すべきことはあるでしょうか?
目次
原則:取締役会か株主総会決議
原則1:取締役会設置会社の場合ー取締役会
取締役会を設置している会社の場合は、取締役会で承認するかどうかを決めます(会社法139条1項本文) 2。
取締役会で承認する場合、原則として取締役の過半数が出席し、さらに出席者の過半数が賛成することが必要です(同369条1項・定款で要件を厳しくすることもできます)。
ちなみに、会社が株式譲渡の承認請求を受けたときは、2週間以内に承認するか否かを決定し、請求者に承認の可否を通知しなければなりません(同139条2項)。
迷っているうちに2週間経過してしまうと、承認したものとみなされてしまうので注意しましょう(同145条1号)。
なお、譲渡の承認を拒否した場合には、「会社」あるいは「会社が指定した者」が株式を買い取ることになります(同140条)が、手続の詳細などは稿を改めて解説します。
原則2:取締役会を設置していない会社の場合ー株主総会
取締役会を設置していない会社であれば、株主総会の決議で承認するかどうかを決定します(会社法139条1項本文)。
この場合の承認の決議は、「議決権の」過半数を持つ株主の出席と、出席株主の議決権の過半数によって行われます(同309条1項・定款で要件を厳しくすることもできます)。
取締役会では「頭数の過半数」であることと違う点に注意です。
承認可否の通知をするまでの2週間の期限は変わらないので、遅れないよう速やかに株主総会招集の準備をすることが大事です。
2つの例外
例外1:定款で承認する人や組織を定めた場合
原則として、取締役会や株主総会で承認の可否を決定しますが、定款で別の者や組織が承認する旨を定めることもできます。
実際によくある定款例が「株式譲渡の承認は代表取締役が行う」というものです。取締役会や株主総会を開催することなく簡易・迅速に手続を行うことが可能です。
逆に、取締役会設置会社で「株主総会の決議を要する」「株主全員の同意を要する」と定めたり、「取締役全員の同意がなければ譲渡できない」など、手続を厳格にして、より慎重な経営姿勢を示す方法もあります。
また「承認を拒否した場合に誰が株式を買い取るか」も予め定款で定めておくことが可能で、手続の簡略化を図ることができます。
例外2:株主全員が同意している場合
株式の譲渡制限は、知らない人あるいは好ましくない人が株主になることで、「他の株主」が困ることを防ぐためにあります。
ですから、たとえ取締役(非株主)が気に入らない人物であろうと、株主全員が譲渡に同意した場合には、承認の手続なく、有効に株式を譲り渡すことができます 3。100%株主であれば、承認手続は不要です。
株主は取締役を選べますが、取締役は株主を選べないのです。
実際には、株主が一人だけの会社(多くの場合、株主=代表取締役です)で、承認手続なしに譲渡が行われることがあります。
会社設立の際に譲渡制限した方がいい?
会社設立にあたって株式の譲渡制限するか否かを迷っている場合には、最初は譲渡制限株式会社を選択することをお勧めします。
譲渡制限を設けていない会社が全株式を譲渡制限株式に変更する場合、株主総会の特殊の決議(会社法309条3項1号、107条)によって定款を変更する必要があります。
株主の「頭数の」過半数の出席と「議決権の」3分の2以上の賛成 4が要求され、可決されたうえで、さらに変更登記する必要があります(同915条1項、911条3項)。
さらに、譲渡制限がないために株主が分散しているおそれがあることを考えると、定款の変更には多大な時間・手間・費用が掛かるおそれがあります。
逆に上場する等の理由で譲渡制限株式の制限を外す 5だけならば、登記の必要はあるものの、より要件の緩い株主総会の特別決議で足りますし、誰が株主であるか把握が容易であるため、比較的定款の変更は容易にできます。
したがって、会社設立時には株式の譲渡に制限を設けた方がコストが安く済むことが多いと考えられます。「誰が承認するか」についても、最初に定款に明記しておくと後々のトラブルを避けることができるでしょう。
ご自身で定款を作成される方も、定款のサンプルをただコピーするだけでなく、どういう意味があるのかを考えて作成すれば、よりよい会社にできると思います。
定款の具体的な記載例と注意点はこちらの記事をご参照ください↓
有限会社の特則についてはこちらの記事をご参照ください↓
おまけ:定款の規程に関する発展的な内容
※下記は法学部生や専門家の方を意識した内容です。本編は以上ですので、読み飛ばしていただいて構いません。
代表取締役を承認機関とすることはできるか?
承認の可否を決定する機関について、定款で別段の定めをすることが可能(会社法139条1項但書)だが、定款の定めさえあれば、誰を承認機関にしてもいいのでしょうか?
まず、あくまで株式会社に対する承認請求なので、会社と無関係の第三者を承認決定権者とすることはできないと考えられます。
では、会社の機関であれば問題ないかといえば、江頭教授は、代表取締役など取締役会よりも下位の機関を承認機関とすることはできないと解釈します。
「定款の定めによっても、取締役会よりも下位の機関(取締役会設置会社の代表取締役、指名委員会等設置会社の執行役等)を決定機関と定めることはできない。」
江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』(有斐閣、2015)236頁
江頭教授は根拠として、譲渡制限株式制度の趣旨、指名委員会等設置会社における執行役への委任の限界、会社法制定時の議論 6 7を挙げています。
「譲渡制限株式の制度は、本来は株主が自分の仲間を選択する形が望ましい姿であり、取締役会設置会社において取締役会が承認の決定機関とされているのは、時間的制約を考慮したものである。したがって、取締役会より下位の機関を決定機関とすることを法は想定しておらず(会社法416条4項1号参照)、…承認の可否につき一定の基準を定め、その基準に従って個々の承認請求を処理することを委ねる形のみが認められる」(形式を一部編集した)
江頭憲治郎『株式会社法(第6版)』(有斐閣、2015)237頁
指名委員会等設置会社においては、取締役会は、その業務執行の決定を執行役に委任できますが、株式譲渡承認請求に対する承認の決定権限は委任することはできません(416条4項1号)。監査等委員会設置会社にも同様の規定があり、定款の定めによっても委任できないと規定されています(399条の13第5項・6項)。
取締役会による慎重な判断を担保する規定の趣旨から139条を限定解釈することは理解できるのですが、下位機関への委任の可否は、条文の文言(承認機関についての制限はありません)や機動的経営の要請の観点から、やや疑問が残ります。
ただ、例えば代表取締役=株主=譲渡人(譲受人)である場合に代表取締役が承認の決定をすることは忠実義務(355条)違反のおそれもあり、江頭教授の主張するような条件を定款で定め、承認機関に恣意的な判断をさせないことも、紛争予防の観点から魅力を感じます。
現状結論を出し切れない問題なのですが、定款の工夫の余地がある部分の一つであると考えておきたいと思います。
参考文献
【 脚 注 】
- 例えば、議決権の過半数を持つ株主がいれば、取締役や社長を自由に変えることができます(会社法329条1項)。 ⮥
- 指名委員会等設置会社においても、取締役会の決定によって執行役などに委任することはできません(同416条4項1号、399条の13第5項1号・第6項) ⮥
- 最判平成9年3月27日民集51巻3号1628頁(有限会社の事例)参照。 ⮥
- 普通決議は「議決権の過半数を有する株主の出席と出席株主の過半数の賛成」で、特別決議は「議決権の過半数を有する株主の出席と出席株主の3分の2以上の賛成」なので、かなり要件は厳しいです。 ⮥
- 全株譲渡制限会社は上場できないからです(金融証券取引所の規則に基づく) ⮥
- 「会社法制の現代化に関する要綱試案」第3-1 ⮥
- 「会社法制の現代化に関する要綱試案補足説明」第4部第3-1(2) ⮥