譲渡制限株式―知らないと損する定款の記載
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■本記事の結論■
「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する。」が基本形。
承認機関や承認の特例を付け加える場合は、条や項を分けて定める規定を勧めます。
目次
基本となる記載例
株式会社で「身内だけで会社を作りたい」「どこの誰か分からない人が株主になるのは不安」というとき、定款に株式譲渡に会社の承認を要する旨を記載することで、株式に譲渡制限を付けることができます。
基本となる定款の条文は以下のようなものです。
■記載例1■
これで会社の規模や取締役会の有無を問わず、知らない人がいつの間にか株主になることを防ぐことができます。
譲渡承認機関について
記載例
譲渡の承認をする者は、取締役会設置会社においては取締役会、非設置会社においては株主総会です。承認する者を別の者(機関)にしたいときは、定款でその旨を明記する必要があります。
譲渡承認機関については下記の記事を参照
例えば、承認機関を代表取締役にしたい場合は、以下のように記載します。
■記載例2■
■記載例3
1項 当会社の発行する株式の譲渡による取得については、当会社の承認を要する。
2項 前項の承認は、代表取締役が行う。
また、知らない人が株主になるのは防ぎたいが、株主間で株式のやり取りをするのは自由にして、いちいち承認手続をやりたくないという場合は、以下の文言を付け加えることもあります。
■記載例4
■記載例5
1項 当会社の発行する株式の譲渡による取得については、当会社の承認を要する。
2項 前項の承認は、代表取締役が行う。ただし、当会社の株主に譲渡する場合は承認があったものとみなす。」
譲渡承認機関の規定を分ける理由
記載例2と記載例3では、書き方こそ違いますが定款の効果は同じです。しかし、将来会社の機関設計を変更したり承認機関を変える可能性を考えると、記載例3の書き方を勧めたいと思います。
なぜなら、記載例2の定款規定では登記手続が増える可能性があるからです。
株式の譲渡制限がある旨は登記する必要があり(会社法911条3項7号、107条)、定款の文言がそのまま登記されることになります(商業登記法24条9号参照)。
■記載例2の登記の記載
■記載例3の登記の記載
株式に譲渡制限があることを示す部分だけ登記すればよいので、記載例3の2項の部分は登記する必要はありません 1。
仮に、譲渡承認機関を変更することになった場合(例えば代表取締役から取締役会に変更)は、定款を変更します(株主総会決議)。記載例3ならばこれだけで承認機関の変更は完了です。
ところが、記載例2の場合は「当会社の発行する株式の譲渡による取得については、取締役会の承認を要する。」と変更登記をする必要があります。登記されている内容と定款の内容が食い違うことになるからです。
承認機関を変更する場合のほか、承認機関を取締役会と定めていたが取締役会を廃止したとき、会社を解散したとき 2にも承認機関の変更登記をする必要があります。
承認機関を登記することで会社外部にも示すことができるメリットはありますが、登記手続の手間と費用のコストを考えると、個人的には承認機関を登記しない定款規定をお勧めします。
最後に
株式の譲渡制限には他にも追加できる定めなどがある一方、定款に定めても無効となる条件もあります。定款をカスタマイズすることで、理想の会社像を実現することができるかもしれません。
気になる方や不安に思われる方はぜひ専門家にご相談ください。
当会計・行政書士事務所では、これから会社を設立する方だけでなく、自社の定款の見直しをしたいという方のご相談も受け付けております。
(平成28年10月時点での情報です。法令や通達の改正により変更になる可能性はあります)
参考:商業登記法
(申請の却下)
第二十四条 登記官は、次の各号のいずれかに掲げる事由がある場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。
(省略)
九 申請書又はその添付書面(第十九条の二に規定する電磁的記録を含む。以下同じ。)の記載又は記録が申請書の添付書面又は登記簿の記載又は記録と合致しないとき。