【民法改正】成人年齢の引下げで何がどう変わるの?
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2017年9月1日、法務省から、「成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正」に関する意見公募(パブリックコメント)の実施が発表されました。
法務省HPより:「民法の成年年齢の引下げの施行方法に関する意見募集」
2022年4月を目途に成人年齢(成年年齢)が18歳に引き下げられることになります。
民法 1は20歳未満の者を未成年と規定し、法律行為の意味や効果に関する判断能力が未熟な未成年を保護する仕組みを置いています。
では、民法が改正されて成人年齢が18歳になると、何がどう変わるのでしょうか?また現在と変わらないものは何でしょうか?18歳・19歳の人に対する法律の扱いを説明していきます。
※2018年通常国会において可決成立しました(2018年6月13日)(提出法案)
※各項目は主に重要度・影響度が高いと思われるものから並べています。
民法4条 年齢20歳をもって、成年とする。
目次
成年年齢引下げによって変わること
民法上のこと
契約を取消すことができない!
未成年者が法定代理人(≒親)の同意を得ずに締結した契約は取消すことが可能です(未成年者取消権)。改正により、18歳・19歳の行った契約は取り消すことはできなくなります。
裏を返せば、18歳・19歳は、クレジットカードやローンなど様々な契約を自由に結ぶことができるようになります。
大学生をターゲットにした「高額なエステ契約」や「マルチ商法」「ローン契約」によるトラブルが毎年数多く報道されています。高額な契約をしたことを親に内緒にしていることが多く、気付いたときには手遅れになるケースもあり得ます。
そんな時に未成年者を守るための制度として、未成年者取消権が活用されていましたが、それを使うことができなくなります。 2。
自由に契約できる範囲が広がる反面、自分自身で責任を取らなければならない事も増えるということです。
民法5条
1項 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2項 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
結婚するのに親の同意がいらなくなる!
改正前の法律では男性は18歳、女性は16歳から結婚することができます(民法731条)が、未成年の間は結婚するために親(の少なくとも一方)の同意が必要です。
今回の改正によって、結婚できる年齢が男女とも18歳に統一され、結婚をするのに親の同意が不要となります。18歳(成年)にならなければ結婚できなくなるため「未成年者の結婚」がなくなるからです。
改正前民法737条
1項 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
親の親権から離れる!
未成年者の子に対して、父母は親権を有します(民法818条)。一言で言えば、親権は子供のためにしつけや財産の管理を行う権利義務をまとめたものです 3。
成年年齢が引下げられると、18・19歳の子は父母の親権から離れることになります。親の財産管理権が及ばなくなるため、単独で自由に契約ができるようになる半面、未成年者であることを理由とする取消ができないのは前述の通りです。
「判断能力の未成熟な子が悪徳商法の犠牲になるのでは?」という憂慮がある一方、「社会人として働いている者もいるのに親権の下にあるのはおかしいのでは」「親に虐待されている子などを早く親権から解放できる」といった意見もあり、法制度だけでなく、経済・教育・福祉など複数の面から自立を促す制度を確立していく必要があると思われます。
また、親と子の間で財産的利害が対立する場合(遺産相続で母と子が共に相続人となる場合など)には、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する必要がありましたが、子が18歳以上であれば手続が不要になります。
民法818条1項 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
「氏」の変更や養子、民法上の資格に関すること
他の未成年者に関する規定を、簡単に列記しておきます。
父母の「氏」が異なる場合、子は家庭裁判所の許可を得て、どちらかの「氏」に変更することができます。さらに未成年の子が「氏」を変更した場合は、成年になってから1年間は変更前の「氏」に戻すことができます(民法791条)。
未成年者を養子とする場合は原則として家庭裁判所の許可を得る必要があります。さらに、結婚している者が養親となる場合は夫婦ともに養親となる必要があります(民法795条、796条)。
また、現在は未成年者は養子を取ることができません(民法792条)が、「20歳に達した者は、養子をすることができる」という条文に改められ、現在と変わらない運用がなされる見込みです。
未成年者は後見人、遺言の証人、遺言執行者になれません(民法847条1号、974条、1009条)。
民法以外の法律に関すること
不利な労働契約を解除できない!
未成年者が、労働契約を結ぶ場合(正社員でもアルバイトでも)は親の同意が必要となります(民法823条1項)が、同意がある場合でも、親や行政官庁が未成年者に不利な労働契約であると認めるときには、労働契約を解除することができます。改正後は18歳以上の者は自身で解除しなくてはなりません。
労働基準法58条2項
親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向つてこれを解除することができる。
起業・会社経営に関すること
女子高生社長や大学生のベンチャー企業などがたまに話題となりますね。
未成年者が自ら起業して仕事をする場合には、法定代理人から営業の許可を得て「未成年者登記」をする必要がありますが、改正後は18歳以上の者は法定代理人の許可や登記の必要がなくなります。
もっとも「未成年者登記」の件数は非常に少なく(平成27年は新規が4件)どれほど影響があるかは不明です 4。
民法6条1項
一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
商法5条
未成年者が前条の営業(商人としての商行為)を行うときは、その登記をしなければならない。
裁判に関すること
「賃金を払え」と請求したり、「契約解除するからお金を返してくれ」と訴えたりする裁判を民事裁判と言います。ちなみに犯罪の成否を決するのは刑事裁判です。未成年者は、民事裁判で、法定代理人の同意なく訴訟行為をすることができません。親元から離れて暮らしている場合でも、親(法定代理人)によって裁判手続を行う必要があります 5。改正によって、この点も変更になると思われます。
民事訴訟法31条
未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
士業などの資格職に就くことができる
未成年者は、たとえ試験に合格していても、行政書士や司法書士になることはできません(行政書士法2条の2第1号、司法書士法5条2号)。他にも未成年者が就くことができない士業や資格職があります。
最終的にはそれぞれの資格を定める法律によって決まることになりますが、改正後は18・19歳の行政書士や司法書士が誕生するかもしれません。
変わらないこと・変わるか分からないこと
変わらないこと
養子を取ることができる年齢
改正後も改正前と同じく20歳のままです(前述のとおり)。
別の法律の改正によって決まること
少年法・飲酒・喫煙・公営ギャンブルはできるか?
飲酒・喫煙・公営ギャンブル(競輪・競馬など)の年齢制限も変えるべきという意見がありますが、これらは依存症防止の観点等から、20歳以上が維持されます。
少年法の適用年齢も20歳未満のままですが、今後引き下げるか否か検討の対象となっています。
刑法の犯罪に関すること
刑法で規定されている犯罪の中には、特に未成年者のみが被害者となる犯罪(未成年者略取及び誘拐(刑法224条)・人身売買(刑法226条の2第2条)・準詐欺(刑法248条))があります。
主に判断能力に乏しい20歳未満の者を保護する規定ですが、民法に合わせ「18歳未満の者」となるのか、「20歳未満の者」と改正されるのか注目されるところです。
その他の法律
ここに挙げた以外にも未成年者に関連する規定がある法律は、国民年金などの社会保障や大型車の運転免許の資格関係などなど合わせて200以上(!)あるそうで、とても全部は把握し切れていません。
その他変更点をまとめたものが法務省のサイトで公開されています。
法務省「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」(外部サイト)
注意事項
本記事は2017年9月4日時点の情報を元に公開後、加筆修正を加えたものです。更新後の法改正などにより記載している情報が変更になる可能性がありますので、ご了承ください。
【 脚 注 】
- 民法は、私法の一般法と言われ、国民同士の法律関係や財産についての基本的な約束事を決めた法律です。契約や所有権、損害賠償や慰謝料、結婚や離婚、遺産相続など私達に身近な法律関係を定めたものです。 ⮥
- 訪問販売のクーリングオフ制度など契約の取消制度はありますが、取消しには期間制限があります。大まかに言うと特定商取引法のクーリングオフは8日間、消費者契約法の取消期間は半年間です。 ⮥
- 「親権」という名前なので、「権利」のように思えますが、実際には「親の義務」としての面が強いと思います。例えば未成年者後見人(民法857条)は「○○しなければならない」という義務が強調されています。 ⮥
- 法務局及び地方法務局管内別・種類別 未成年者及び後見人の登記の件数(登記統計)を参照。 ⮥
- 実際には弁護士などの訴訟代理人が手続を代わりに行うことがほとんどだと思いますが。 ⮥