全ての建設業者が知るべき「軽微な建設工事」とは?
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建設工事を行うためには原則として建設業の許可が必要です。無許可で建設工事を行うと建設業法に違反してしまいます 1。
ただし、例外として「軽微な建設工事 2」は、許可がなくても請け負うことができます。
許可がなくても受注可能な「軽微な建設工事」について解説していきます。
※本稿は2017年10月1日時点の法律に基づいて執筆しております。
目次
「軽微な建設工事」とは?
「軽微な建設工事」の定義
「軽微な建設工事」とは請負金額・規模の小さな建設工事のことで、具体的には以下の表に示す建設工事です 3。
軽微な建設工事 | |
---|---|
建築一式工事 | 請負代金1500万円未満の工事 |
延べ面積150m²未満の木造工事 | |
建築一式以外の工事 | 請負代金500万円未満の工事 |
いずれも消費税を含む金額 4なので、例えば税抜498万円で大丈夫だと思っていると、税込547万円超となり違法な無許可工事となるおそれがあります。
「木造住宅」とは、建物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根又は階段)が木造の、住宅・共同住宅・併用住宅(延べ面積の2分の1以上が住居部分)を言います 5。木造の建物であってもその半分以上が店舗として利用されるものは「木造住宅」ではないので、請負代金1500万円未満でない限り軽微な建築工事の対象にはなりません 6。
契約を分割して軽微な建設工事にできる?
軽微な建設工事の判断基準は工事1件あたりの金額です。では、1件あたり500万円未満になるように、工事を分割して受注することはできるでしょうか?例えば、請負代金800万円の契約を2つに分けて400万円ずつの工事2件として受注すれば、無許可で工事できるのでしょうか?
答えは「できません」。同じ業者が工事を2つ以上に分割して請け負うときは、その合計金額が判断基準となります 7。
ただし、契約を分けることに「正当な理由」があれば契約の分割も可能で、それぞれの契約金額が判断基準となります。
「正当な理由」は個別具体的なケースごとに判断されますが、建設業法の規制を逃れるための分割でないこと、その証明ができることが必要になります。単に「異なる建築業種(例:大工工事と屋根工事)だから」とか「着工後に追加した工事だから」という理由だけでは認められないと考えた方がいいでしょう。
軽微な建設工事(500万円未満)は建設業許可がなくても請け負うことが可能とされていますが、次のような工事も軽微な建設工事になりますか?
- ①独立した工種ごとに契約し、個別には請負代金が500万円未満だが、合計すると500万円以上になる場合
- ②元請工事の工期が長期間で、500万円未満の工事を請け負った後に長期間の間を置いて再度500万円未満の工事を請け負ったが、合計すると500万円以上になる場合
- ③はつり、雑工事等で断続的な小口契約をしたが、合計すると500万円以上になる場合
□A1-2
- ①工事の完成を二つ以上の契約に分割して請け負う時は、各契約の請負代金の合計額を工事の請負代金とすることになっており、軽微な建設工事に該当せず建設業許可が必要となります。(令第1条の2第2項)
- ②①と同様に考えるので軽微な建設工事には該当しません。
- ③①と同様です。例えば、単価契約等による工事を行った場合に、総額(単価×数量)が500万円以上になる場合は、軽微な建設工事には該当しません。
- (建設業法Q&A(平成28年11月改訂版島根県土木総務課建設産業対策室)3頁)
支払ってもらう金額が500万円未満なら大丈夫?
工事の請負代金が500万円未満であっても「軽微な建設工事」に該当しない場合があります。
工事の注文者(発注者)が材料を用意する場合には、その材料の市場価格と運送費賃を請負代金に加えた合計額が判断基準となります 8。
したがって、工事代金が400万円、発注者に提供を受けた材料代が200万円であれば、400万円+200万円=600万円となり「軽微な建設工事」には該当しません。
通常は工事の請負代金には材料費が含まれていますから、注文者が材料を用意(その分請負代金を値下げ)したかどうかで扱いが変わるのは不合理だからです 9。そのため、工事原価に含むべきものは含めて請負代金の金額を判断するのです。
建設許可業者も知らないと危ない!?
「軽微な建設工事」が何かは、建設業許可を持っていない業者だけでなく、すでに許可を取得している業者も知っておく必要があります。
自ら「軽微な建設工事」を受注する場合
一つは、許可業者も許可を受けていない業種の建設工事を請け負う可能性があるからです。
建設許可は業種ごとの許可なので、原則として許可業種外の工事を請け負うことはできません。
例外的に「軽微な建設工事」や「附帯工事」に該当する場合には、工事を受注することが可能です 10。
「契約しても、そのまま下請に出すからいいよ」と思っていると、一括下請禁止 11に違反するおそれがあります。
建設工事を下請に出す場合
もう一つは、工事を下請に出すことがあるからです。
建設業許可のない業者に対して下請に出すことができる工事は「軽微な建設工事」だけです。もし請負代金500万円以上で下請に出すと、建設業法違反となり営業停止処分などを受けるおそれがあります 12。
下請業者だけでなく、下請に出した元請業者も建設業法違反となってしまうので、何が「軽微な建設工事」に該当するかはすべての建設業者が知っておく必要があるのです。
「軽微な建設工事」に該当…でも注意!
1件500万円未満の建設工事であっても、建設業許可以外の許可などが必要なケースがあります。
例えば、電気工事や消防施設工事は、それぞれ電気工事士免状・消防設備士免状等の交付を受けた者等でなければ、一定の工事に直接従事できません。電気工事については、さらに電気工事業登録等も必要です。
また500万円未満の解体工事については、土木・建築・解体工事等の建設業許可業者以外は、解体工事業登録をしなければ工事を行うことができません。
建設業法だけに気を取られてうっかり別の法律に違反しないよう、気になることがあれば専門家に確認することをおすすめします。
【 脚 注 】
- 建設業法47条により、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科され、あるいはその両方が科されます。 ⮥
- 建設業法3条1項では「軽微な建設工事」と書かれていますが、一般的には「軽微な工事」と省略されることもあります。本サイトでも両方の単語を併用しています。 ⮥
- 建設業法(以下「法」)3条1項但書、建設業法施行令(以下「令」)1条の2。 ⮥
- 「建設業許可事務ガイドラインについて(平成13年4月3日国総建第97号)」(以下「ガイドライン」)34頁参照。消費税は取引の各段階において適正に転嫁される必要があるので、請負取引においても代金に消費税が含まれることが想定されています。そのため、建設業法中の請負代金はすべて税込であると解されています。消費税の仕組みについては国税庁の解説が参考になります。 ⮥
- ガイドライン8頁。 ⮥
- 逆に、面積条件を満たす木造住宅であれば、請負代金1500万円以上でも軽微な建設工事に該当します。 ⮥
- 令1条の2第2項。1つの工事を2件に分けても、それぞれ別の業者が請け負うのであればそれぞれの請負金額で判断されます。1つの業者が1件の工事につきどんな請負工事をするかが問題だからです。 ⮥
- 令1条の2第3項 ⮥
- これが許されると、注文者に材料を代わりに購入してもらうことで建設業法の規制を逃れることができてしまいます。 ⮥
- 附帯工事については法4条。許可を受けた建設工事に附帯する他の建設業種の工事を請け負うことができます。 ⮥
- 法22条。 ⮥
- 法28条1項6号「建設業者が、第3条第1項の規定に違反して同項の許可を受けないで建設業を営む者と下請契約を締結したとき。」。そのリスクを避けるため、できるだけ建設業許可を持っている業者と取引したいと考えるのは自然だと思います。 ⮥