特定建設業許可とは?どんなときに必要?
「軽微な工事」だけを請け負う業者を除き、建設業を営むためには建設業許可が必要です。
建設業許可には一般建設業許可と特定建設業許可があります。
許可を受けるときには、どちらの許可を受けるか選択しなければなりません。
一般と特定でどう違うのか、どちらの許可が必要なのか、要件や義務にどんな違いがあるのか、特定建設業許可について一つにまとめて解説していきます。
目次
特定建設業許可とは?
特定建設業許可の趣旨
一定規模以上の建設工事を施工するために建設業許可が必要なのは、技術と経営の安定性がある業者だけに許可を与えることで、適正な建設工事を行うようにし、発注者を保護して社会全体の利益に繋げる狙いからです。
特定建設業許可は、自社だけでなく下請に発注して施工する大規模工事を想定し、発注者だけでなく下請業者も保護する狙いから設けられた許可制度です。
したがって、特定建設業許可では「下請業者も含めた適切な施工体制の確保」と「より高度の経営安定性」が求められ、要件や義務が厳しくなっています。
特定建設業許可の内容
概要
業種ごとに、発注者から直接請け負う1件の工事につき、下請代金の総額が4000万円(建築一式工事の場合は6000万円)以上となる下請契約を締結して工事を施工する者が受けなければならない許可です 1。
そのような工事を請け負うことのない業者が建設業許可を受けるときは、一般建設業の許可を申請します。
業種ごと
一般建設業の許可と同様、特定建設業の許可も業種ごとに取得します。
ですから、建築一式工事は特定建設業許可、大工工事と屋根工事は一般建設業許可を取得するということも可能です。
ただし、同じ業種について特定許可と一般許可の双方を取ることはできません 2。
発注者から直接請け負う
発注者から直接請け負った者=元請業者のみが特定建設業許可の必要な者です。
元請業者から請け負った下請業者(一次下請)がさらに下請に出す場合(二次下請)は、契約金額に関わらず特定建設業の許可がいりません。
二次下請業者がさらに下請に出す三次下請であっても同様で、下請のみ行う業者は特定建設業の許可が不要です。
下請代金の総額が一定額以上
発注者から請け負った1件の工事につき、下請に出す際の下請代金の総額が4000万円以上(建築一式工事の場合は6000万円以上)となるのであれば、特定建設業許可が必要となります。
特定建設業許可の要否の基準は、下請に出す場合の下請代金の総額です。「軽微な工事」かどうかの判断基準と異なり、請負代金の額に制限はありません。
下請代金の合計額が基準なので、1社ごとの下請代金が基準額未満でも、複数の下請業者と契約を結んだ下請代金の総額が基準額以上であれば特定建設業許可が必要となります。
元請業者が下請に出す場合でも、下請金額の合計が4000万円(建築一式工事は6000万円)未満であれば、特定建設業の許可は不要です。一般建設業許可(軽微な工事であれば無許可)で下請に出すことができます。
また、基準金額は元請業者が契約する下請代金の総額、すなわち一次下請代金の合計です。一次下請業者がさらに下請契約する二次下請の下請代金は計算に含まれませんので、二次下請以下の金額を気にすることはありません。
特定建設業許可の要件
特定建設業許可は、下請業者保護の観点から、一般建設業許可よりも要件が厳しく取得が難しいものになっています。
一般建設業許可と要件が同じであるもの
「経営業務の管理責任者」と 「請負契約について誠実性があること」、「欠格事由に該当しないこと」は、一般建設業許可と要件の内容は同じです 3。
一般建設業許可と要件が異なるもの
営業所の専任技術者
一般建設業許可では、1級・2級相当の国家資格や免許、技術、実務経験を持つ技術者が、営業所ごとに専任で配置することが必要でした 4。
特定建設業許可では、1級相当の国家資格・免許を持つ者や、一般建設業許可の要件を満たす技術者で、かつ4500万円以上の元請工事につき2年以上指導監督的立場での実務経験がある者を、営業所ごとに専任で配置することが必要です 5。
財産的要件
一般建設業許可では、新規の許可申請時に500万円以上の資金調達能力又は自己資本があれば足ります。
しかし、特定建設業許可では、以下の4つの要件全てを満たさなければなりません。
許可申請時直前の決算期の財務諸表(新規設立であれば創業時の財務諸表)で判断しますが、①資本金については、決算時に2000万円未満でも許可申請前までに増資(資本金を増や)して2000万円以上にすれば要件を満たすことができます 9。
許可後に要件を満たさなくなったら
許可取得後に、退職や解雇などで「経営管理責任者」や「専任技術者」の要件を満たさなくなった場合には、2週間以内に代わりの者を立てて変更届を提出しなければ 10、許可が取り消されてしまいます 11。
許可取得後に、大きな赤字を出す等して財産的要件を満たさなくなったとしても、直ちに許可が取り消されることはありません。ただし、許可の更新時 12なので、継続するためには更新手続が必要です。[/ref]直前の決算期に財産的要件を満たしていない場合は、更新できません。
特定建設業者の義務
特定建設業者は、下請業者保護のため、特別な義務が課されています。
下請代金の支払期日
原則として、下請業者に対する代金支払期日は、工事完成後の検査確認を終えて下請人が引渡しを申し出たときから50日以内で、しかもできる限り早い期日にしなければなりません 13。
「申し出から2か月後に支払う」という約定があっても無効で、申し出から50日目が支払期日となります 14。
下請人の指導・通報義務
特定建設業者が元請人となった工事において、下請人が建設業法や労働法などに違反しないよう指導し是正を求め、是正しない場合には国土交通大臣や知事に通報する義務があります 15。
施工体制台帳・施工体系図の作成義務
特定建設業者が元請人となった工事において、下請に出した下請代金合計額が4000万円(建築一式工事は6000万円)以上となる場合は、「施工体制台帳」と「施工体系図」を作成する義務があります 16。
施工体制台帳は、下請業者の名前や工事内容・工期・社会保険の加入状況等を記載した帳簿で、下請業者に通知の上、工事現場ごとに備え置いて閲覧できるようにしておく必要があります 17。
施工体系図は、工事における各下請負人の施工の分担関係が明らかとなるよう系統的に表示した図で、工事現場の見やすい場所に掲げておく必要があります。
監理技術者の設置義務
特定建設業者が元請人となった工事において、下請に出した下請代金合計額が4000万円(建築一式工事は6000万円)以上となる場合は、工事現場に、施工管理を行う監理技術者を置かなければなりません 18。
監理技術者は、建設工事の施工計画の作成、工程管理、品質管理その他技術上の管理のほか、工事従事者の指導監督を業務とする者です 19。
監理技術者になれるのは上述の専任技術者の要件を満たす者です。ただし、個人住宅工事など一部の例外を除く工事においては、監理技術者資格証の交付を受け監理技術者講習を受講した者を、工事現場ごとに専任で配置しなければなりません 20。
【 脚 注 】
- 建設業法(以下「法」と省略)3条1項2号、建設業法施行令(以下「令」と省略)2条。 ⮥
- 法3条6項により、一般建設業許可を受けた者が同じ業種につき特定建設業許可を取ると、一般建設業許可は無効になります。したがって、複数の営業所がある場合には、全ての営業所に、特定建設業許可の要件を満たす専任技術者を常勤で配置しなければなりません。 ⮥
- 法15条1号、17条による準用。 ⮥
- 法7条2号。 ⮥
- 法15条2号、令5条の3。 ⮥
- 法人であれば、純資産の合計。 ⮥
- 法人であれば、繰越利益剰余金がマイナスの場合に、その額が資本剰余金・利益準備金などの合計を上回る額。繰越利益剰余金がプラスであれば問題ありません。 ⮥
- 「流動資産」÷「流動負債」×100で表される比率 ⮥
- 「建設業許可事務ガイドラインについて」32頁。 ⮥
- 法17条により準用される法11条4号・5号を参照。 ⮥
- 法29条1項2号。 ⮥
- 許可の有効期限は5年間 21法3条3項。 ⮥
- 法24条の5第1項。 ⮥
- 法24条の5第2項。支払期日を定めていないときも同様です。 ⮥
- 法24条の6、令7条の3。 ⮥
- 法24条の7、令7条の4。 ⮥
- 施工体制台帳の記載事項は、建設業法施行規則14条の2を参照。 ⮥
- 法26条2項。 ⮥
- 法26条の3第1項。 ⮥
- 法26条3項、4項。 ⮥