建設業許可を受けると軽微な工事を受注できない?ケース2
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建設業許可を取得するメリットの一つが、建設工事請負金額の上限がなくなることです。
建設業の許可を得ていない業者は、軽微な建設工事 1しか、受注・施工することができません。建設業許可を取得すれば、その上限が撤廃されるのです。
ところが、建設業の許可を持っていることで、逆に「軽微な建設工事」を受注できないケースがあります。
特に一人親方や小規模会社の方が注意すべき建設業許可取得のデメリットについて解説します。
目次
軽微な建設工事を受注できないケース
岡山県で建設業を取得した一人親方Aさんのケース
一人親方のAさんは、従業員を雇わず一人で全国を飛び回って仕事をしています。 受注範囲を広げるために、岡山県で大工工事の一般建設業許可を取得しました。
京都府内の大工工事(税込480万円)を依頼されたので、早速京都へ行こうとしたところ、知り合いの行政書士から「その工事を受注することはできませんよ」と止められました。
解説
大工工事(税込480万円)は軽微な建設工事ですから、許可の有無に関わらず、受注・施工することが可能なはずです。
また、建設業許可には工事場所の制限はありませんので、岡山県の許可で日本全国どこの工事でも受注・施工することができるはずです。
なぜ受注できないと言われたのでしょうか?
理由は技術者の配置義務に違反するから
行政書士がAさんを止めた理由は、建設業者における技術者配置義務に違反するからです。建設業許可を取得した建設業者には2つの技術者配置義務が課されます。
1.営業所に専任技術者を配置する義務
建設業者は、営業所ごとに、一定の資格又は実務経験を有する「専任の」技術者を配置しなければなりません 2。営業所に常勤・専任して、工事請負契約の締結や履行に関する業務を行います。
したがって、営業所の専任技術者は、業種を問わず、原則として工事現場で働くことができません。
2.専任技術者について(第2号)
(1)「専任」の者とは、その営業所に常勤して専らその職務に従事することを要する者をいう。(建設業許可事務ガイドライン(平成13 年4月3日国総建第97 号))
2.工事現場に主任技術者を配置する義務
建設業者は、許可を取得した業種の建設工事を施工する際に、工事現場に施工の技術上の管理を行う主任技術者を配置しなければなりません。
主任技術者は、自身または直接かつ恒常的に雇用する者で、専任技術者になることができる資格又は実務経験を有する者でなければなりません。
元請・下請、請負金額の多寡は問われませんので、たとえ軽微な建設工事であっても、許可を受けた業種については主任技術者を置かなければなりません。
建設業法第26条第1項(主任技術者及び監理技術者の設置等)
建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第七条第二号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。
3.専任技術者が主任技術者を兼任できる場合(例外)
専任技術者は、原則として営業所から離れられません。
しかし、「営業所での取引に関する業務」と「工事現場での施工管理業務」を実質的に行うことができると判断される場合には、例外的に主任技術者を兼任することができます。
具体的には、以下の全ての要件を満たす場合です。
- 専任する営業所で契約した工事である
- 営業所と工事現場の距離が近い
- 営業所と常時連絡を取ることができる体制にある
- 技術者の現場専任が不要な工事である 3
1つでも要件を満たさない場合は、専任技術者が工事現場で働くことはできません。
技術者の専任性が求められない工事であって、当該営業所において請負契約が締結された建設工事で、工事現場の職務に従事しながら実質的に営業所の職務にも従事しうる程度に工事現場と営業所が近接し、当該営業所との間で常時連絡をとりうる体制にあるもの(直接かつ恒常的な雇用関係にあることが必要)については、「営業所に常勤して専らその職務に従事」しているものとして兼任が認められています
(岡山県土木部監理課「建設業許可の手引<平成30年4月1日改訂>」)
4.Aさんのケースに当てはめると・・・?
岡山県の建設業許可を受けたAさんの場合、従業員がいませんから、営業所の専任技術者はAさん自身です。
すると、原則としてAさんは営業所以外の場所で働くことができませんが、例外的に営業所から近い工事現場であれば工事に従事することができます。
どのくらいの距離なら「営業所から近い」かは一律に断言することは難しいですが、少なくとも複数の都道府県を経た岡山県と京都府の間は「近い」とは言えないでしょう。
したがって、Aさんは京都府の現場に行くことはできず、工事の施工はできないのです。
では、解決方法はないのでしょうか?
この場合、従業員を雇えば、他都道府県の工事現場に行かせることができます。建築士などの資格者や実務経験を有する者であれば、主任技術者になれます。
ただし、「 直接かつ恒常的に雇用する者 」でなければ主任技術者にはなれません。外注や他社の派遣従業員、工事期間のみの短期労働者では要件を満たさないので注意を要します。
建設業許可を受けていなければ、Aさんが税込み480万円の軽微な工事を受注・施工することに問題はありませんでした。
建設業許可を受けたことで、受注できない工事ができてしまったのです。
まとめ
特に個人事業主や小規模事業者の方、都道府県の枠を越えて活躍されている方が陥りやすい建設業許可のデメリットについて解説しました。
建設業許可申請をする前にメリットとデメリット・コストを比較して、自身にとってより良い選択をしていくことが要になります。
当事務所では許可申請の代行だけでなく、個々の企業の状況をお伺いし許可取得後に生ずる義務やコストをも見据えて、必要となる手続や準備の提案をさせていただきます。
参考文献
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