出資金は返還してもらえる?―出資と融資の違い
更新日:
「取締役を辞めるので、出資金を返還してくれ」というのは、株式会社の創業当初から携わった役員が会社を辞めるときによく聞く台詞です 1。
このとき、出資金を返してもらうことはできるのでしょうか?
また、会社への「出資」と似たものに「融資」がありますが、両者はどこがどう違うのでしょうか?
両者の違いについて、株式会社に出資する場合を中心に解説していきます(有限会社、合同会社もほぼ同じ内容が当てはまります)。
【2017.6.29追記】本記事は「株式会社」に出資する場合の法制度について解説したものです。合名・合資会社などの持分会社、「消費者生活協同組合」(いわゆる「生協」)や農協、信用組合などへ出資する場合は異なる法規制がありますので、ご注意ください。
目次
出資と融資の違いは?
出資も融資も会社にお金や財産を出す点では同じです。
違うのは、原則として出資は返してもらえませんが、融資は返してもらえる点です。
会社に出資したお金は会社のものになります。ですから会社は出資金を出資者に返還する義務はありません 2。
むしろ、会社は勝手に出資金を株主に返還してはいけません。会社と取引をする金融機関や事業者、顧客などは、会社に出資されたお金(及びそれを元にして得た財産)から返済や支払いを受けるので、勝手に会社財産を減らされては困るからです。
例外として、後述の配当金や、会社がなくなるとき(清算手続)に会社に残った財産の分配(残余財産の分配)という形で出資者にお金が戻ってくることがあります 3。
それに対して、融資したお金は会社に貸したものですから、返済期限が来れば会社は返還する義務があります(通常は元本に加えて利子も支払われます)。
出資すると何か得はある?
出資するとお金を返してもらうことができないなら、出資者に何の得があるのでしょうか?
出資するとその会社の株式をもらうことができます。会社の株式とは株式会社の所有権のことです。出資して株式をもらい株主になるということは、会社の持ち主になることです 4。
株主には、利益が出たときには配当金をもらったり、社長を誰にするか決めることができる大きな権限があります 5。社長と言っても、株主が雇っているようなものですね。
以上のことをまとめると、出資とはお金を払って会社を買うことなのです。出資は買い物、融資は貸付けなのです。
それでも出資分を返してもらいたいときは?
株式会社に出資するという買い物は返品が利かないため、会社から出資金を返還してもらうことはできません。しかし、株式会社であれば株式を売ってお金に換え、資金を回収することができます。
ただ、上場企業などの公開株式であれば自由に株式を売買できる 6ものの、定款で株式の譲渡を制限している譲渡制限株式は、会社の同意なしに株式を売買することができません。また、わざわざ譲渡制限株式を買おうと思う人を見つけることも大変です。
そこで、譲渡制限株式会社では、会社自身や取締役・株主に株式を買取るよう請求することが多いと思われます 7。
買取金額は買取人との話し合いで決めることができますが、会社の財務状況によって出資額より高くなったり安くなったりすることもあります(時にはゼロになることも!)。
また会社が買い取ると決めても、財務状況によっては、会社にお金があったとしても買い取ることができないケース 8があるので要注意です。
他には、会社を清算したときに残った財産の分配を受けて、資金を回収することもできます。
まとめ
株式会社に出資すると株式会社の役員人事などに口を出すことができますが、出資した金銭を回収することは容易ではありません。
「取締役などの役員になるかどうか」と「株主になるかどうか」は別問題です。
役員になるから株主になる必要があるわけではないですし、役員を辞めても株主を辞められるとは限りません。
「会社にお金を出してくれないか?」と言われたときは、返還してもらえる融資(貸付)なのか、返還してもらえない出資なのか、内容をよく確認してから判断することが大事です。
そして、融資なのか出資なのか、あるいは贈与なのか、お金を出す目的と内容は書面(契約書・確認書など)に残すようにしましょう。後で「あのお金はもらったものだから返さない」と言われて困るのはお金を出した側です。
当事務所では、出資金や株式譲渡に関するご相談を承っております。まずはお気軽にご相談ください。
【松葉会計事務所・松葉行政書士事務所】
担当行政書士:松葉 紀人(まつば のりひと)
⇒お電話でのお問い合わせはこちら 0863-32-3560
⇒メールでのお問い合わせはこちら
【 脚 注 】
- 個人のイメージです。 ⮥
- なお、株式会社設立時の出資については、会社に対して詐欺や錯誤(勘違い)等を理由に取消し・無効を主張して、お金を返還してもらうことはできません(会社法51条)。設立後の出資も、権利行使後又は出資から1年を過ぎた場合は同様の扱いです(会社法211条)。但し、騙した相手に対しては損害賠償を請求したり(民法709条)、刑事告訴できる可能性もあります。 ⮥
- 厳密には「出資金の返還」ではないので、出資した金額満額がもらえるとは限らず、減ることがあります。儲かったときに清算すれば逆に増えることもあります。 ⮥
- ですから「会社は社長のものではなく株主のもの」と言われます。 ⮥
- 剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権が株主の権利として定められています(会社法105条) ⮥
- インサイダー取引など金融商品取引法による規制には注意する必要があります。 ⮥
- 会社との合意による買取だけでなく、請求譲渡承認請求と併せて行う強制的な買取請求もあります(会社法138条1項ハ)。 ⮥
- 財源規制:会社法461条1項1号。これに違反した場合、金銭を受け取った人と買取りに関与した取締役は会社に金銭相当額を返還しなければなりません。 ⮥