特則に注意!有限会社の株式譲渡はどうする?承認機関は?
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■本記事の結論■
ただし、定款の変更を伴う手続は、株式会社よりも決議要件が厳しいです。
また、譲渡承認機関を変更する場合は、定款の記載内容によって変更登記の必要があるので要注意です。
平成17年に会社法の施行によって「有限会社」という種類の会社はなくなり、従来の有限会社は株式会社(「特例有限会社」と言います)になりました 1。
「有限会社」という名称は引き続き使用することができますし、役員の任期もなく、継続に何の手続も要しないのであまり意識していない会社も多いかもしれませんが、従来の有限会社の出資者が持っていた「持分」は「株式」に、「社員(出資者)」は「株主」へ、「社員総会」は「株主総会」へと変わりました。
株式の譲渡に関しては、会社の承認が必要となる「譲渡制限株式会社」とほぼ同様に扱われますが、異なる点もあります。
そこで、特例有限会社における株式の譲渡について解説します。
目次
特例有限会社は全て譲渡制限株式会社なのか?
特例有限会社は、定款に株式(持分)の譲渡に関する規定が何もなくても、「株式を譲り受けるときには会社の承認が必要である」「株主間の株式譲渡は会社が承認したものとみなす」という2つの定款規定が存在するとみなされます 2。
しかも、それらと矛盾する定款の規定を定めることはできず、仮に定めても無効となります 3。つまり、株式の譲渡に会社の承認を不要としたり、株主間の譲渡にも承認を要求する定款変更はできません 4。
そのため、特例有限会社は全て譲渡制限株式会社であり、会社の承認なしに株式を譲渡することができないのです。
誰が譲渡の承認をするのか?
原則:定款の規定を設けていない場合
通常の株式会社であれば、取締役会がある会社は取締役会の決議、取締役会のない会社は株主総会の決議で譲渡承認可否の決定をします 5。
他方、特例有限会社は取締役会を設置することができない 6ので、株主総会の普通決議(出席株主の議決権の過半数の賛成)で承認の可否を決定します 7。
株式譲渡を承認をする株主総会決議の要件で、通常の株式会社と異なる点はありません。
例外:譲渡承認権者の変更は可能か?
前述のように、「株式譲渡に承認を不要」としたり、「株主間譲渡についても承認を要する」定款に変更することはできません 8。
しかし、「誰が株式譲渡を承認するか」については制限がないので、定款で変更できると考えられます 9。
例えば
・「取締役の多数決で承認の可否を決める」
・「代表取締役が承認する」 10
・「株主総会の特別決議によって可否を決する」(決議要件の加重)
という条項が考えられます 11。
なお、監査役がいる特例有限会社もありますが、監査役を譲渡承認機関にすることはできないと解されます。監査役は業務執行を監督する立場なので、自ら「株式譲渡の承認」という業務執行を行うことはできないと考えられるからです。
定款を変更するときの手続
譲渡を承認する機関を変更するのであれば、その旨の定款変更の手続が必要です。これにも通常の株式会社と異なる特則があります。
定款変更は株主総会の特別決議で行います 12。
通常の株式会社における特別決議は、議決権の過半数を有する株主の出席と、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決します 13。
しかし、特例有限会社における特別決議では、総株主(頭数)の半数以上かつ議決権の4分の3以上の賛成が必要です 14。株式会社に比べて可決要件が厳しくなっています 15。
定款の変更手続は通常の株式会社よりも要件が厳しいと思っておきましょう。
定款にどう書く?ー既に記載がある場合
既に譲渡制限に関して定款に記載がある場合は、その規定を変更します。登記の記載内容によっては変更登記が必要となる場合があります(次項を参照)。
定款にどう書く?ー定款に記載がない場合
定款に譲渡制限の記載がない場合は、少し注意が必要です。
株式の譲渡を制限する会社はその旨を登記をする義務があり、登記簿には譲渡を制限する定款の文言をそのまま載せることになるからです。
平成17年の会社法施行に伴い、有限会社は譲渡制限株式会社となったので、株式の譲渡制限を登記する必要があります。
「特例有限会社になるときに、そんな登記手続をした覚えはない!」と思われるかもしれませんが、登記所で変えてくれています。登記簿を取得してみると、おそらく以下のように記載されていると思います。
株式の譲渡制限に
関する規定当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する。当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合においては当会社が承認したものとみなす。
新たに定款に記載を設ける場合は、この登記簿の言葉をそのまま使うのがいいでしょう。
例えば、「代表取締役の承認を要する」規定に変更をする場合には
「○○条
1項 当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する。当会社の株主が当会社の株式を譲渡により取得する場合においては当会社が承認したものとみなす。
2項 前項の承認は代表取締役が行う。」
とすれば、変更登記をすることなく定款変更だけで手続を終えることができます。
最後に
通常の株式会社と同様に、特例有限会社においても定款で追加できる定めなどがある一方で、定めても無効となる条件があります。特例有限会社に限界を感じたならば、通常の株式会社に移行する方法もあります。
気になる方や不安に思われる方はぜひ専門家にご相談ください。
当会計・行政書士事務所では、これから会社を設立する方だけでなく、自社の定款の見直しをしたいという方のご相談も受け付けております。
【松葉会計事務所・松葉行政書士事務所】
担当行政書士:松葉 紀人(まつば のりひと)
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参考文献
【 脚 注 】
- 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」)2条、3条。 ⮥
- 整備法9条1項。 ⮥
- 整備法9条2項 ⮥
- 「株式を譲り受けるときには会社の承認を要する。ただし、あらゆる株式の譲渡は会社が承認したものとみなす」という定款は、承認不要と同じことなので無効だと考えられます。 ⮥
- 会社法139条1項。 ⮥
- 特例有限会社は、株主総会、取締役、代表取締役、監査役以外の機関を置くことはできません(整備法17条1項)。 ⮥
- 会社法139条1項、会社法309条1項。 ⮥
- 整備法9条 ⮥
- 会社法139条1項但書。ただし、あくまで「会社の承認」なので、会社と無関係の第三者を承認者とすることはできないでしょう。 ⮥
- 代表取締役を承認機関にできるかは、争いがあります。 ⮥
- 松井信憲『商業登記ハンドブック(第3版)』(商事法務、2015)584頁参照。インターネットで検索してみると「承認機関を定款で変更することもできない」という意見もありますが、条文の文言上は制限されていないので定款で特則を定めることはできると考えます。 ⮥
- 会社法466条。 ⮥
- 会社法309条2項11号。 ⮥
- 整備法14条3項。 ⮥
- 例えばA:80株、B:10株、C:10株(発行済株式総数100株、株主3人)の会社があるとします。通常の株式会社であれば、Aは全株式の3分の2以上を持っているので、Aが賛成すれば特別決議は可決されます。しかし、特例有限会社であれば株主の半数以上=2人以上の賛成が必要なので、Aが賛成してもBCが反対すれば否決されることになります。 ⮥