合同会社の落とし穴2~社員の死亡で会社が解散?~
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平成17年の会社法制定によって、新たに設立できるようになった合同会社。
大企業から個人事業主の法人成りまで幅広く利用され、一人でも設立できると評判の合同会社ですが、大事なポイントを見落とすと設立してから「こんなはずではなかった…!」と後悔することも。
今回は一人会社の相続の事例を通して、設立前に知っておきたい合同会社の定款作成の注意点を解説します。
目次
事例
一人で合同会社を設立したBさんの場合
Bさんは、脱サラして、スマホ向けアプリの開発を主な事業とする会社「合同会社アプリ作るぞ」を設立することにしました 1。
資本金を出す社員(従業員ではなく出資者のこと)はBさん1人。そのまま社長になります。事業に使える費用はサラリーマン時代の貯金と退職金。
そこで、できるだけ費用を節約しようと思い、設立費用の安い合同会社を選択し、定款作成も設立手続もすべて自分で行いました。
Bの妻と、前の会社から着いてきた部下2人を従業員として雇い入れ、4人で「合同会社アプリ作るぞ」は発足。
カメラで撮った写真からモンスターを作って操作できるスマホゲーム「カメラ&ドラゴン」が大ヒットして、1年目から大きな売上と利益を生むこととなりました。
ところが、事件は突然に起こります!
思わぬ大ヒットに対処するための過労で、社長のBが急死したのです。
突然の訃報にBの妻も従業員も大慌て。これから会社をどうするか、後継者は誰にすべきかと思って、知り合いの行政書士に相談すると
「残念だけど……もう会社は解散したので、続けることはできないよ」
と言われました。
※この事例はフィクションです。実在する一切の個人・団体とも関係はございません。
事例の解説
問題となる会社法の条文
第607条1項 社員は…次に掲げる事由によって退社する。
(1~2号 省略)
3号 死亡
第641条 持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
(1~3号 省略)
4号 社員が欠けたこと。
第590条1項 社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。
第608条1項 持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。
何が問題だったのか?
合同会社は、社員(出資者)が全員いなくなる(退社する)と、解散します(641条) 2。
解散すると、会社は清算手続に入り、その手続が全て終了すること(清算結了)によって消滅します 3。
清算手続に入った会社は、清算人が就任した後、契約や事務処理の後始末、売買代金の取立て、買掛金や借入金の支払い、会社に残った財産の払戻しなど、解散前までの法律的・経済的関係の整理を行うだけで、事業活動の継続はできなくなり、最終的には従業員も解雇されます(644条、649条)。
取引が一切できなくなるわけではありませんが、事業を拡大するような取引はできなくなり、債権者への告知期間があるため借入金の返済など債務の弁済もすぐに行うことはできません(660条1項、661条参照)。
そして、合同会社では社員(出資者)が死亡すると退社として扱われ、原則として相続によって相続人が社員(出資者)の地位を引き継ぐことはありません。
株式会社では社員(株主)が死亡しても、相続人が新たな株主になる(株式の相続)こととは大きく異なります 4。
株式会社では「株式を持っているかどうか」(持ち株数)が重視されるのに対して、合同会社(を含む持分会社)では「社員は誰か」を重視するからです 5。
したがって、社員が1人の合同会社では、社員が亡くなると同時に会社は解散してしまうのです。
どうすればよかったのか?
定款に相続の特則を定めておく
原則として相続によって相続人が社員(出資者)になることはないと書きましたが、例外があります。
予め会社の定款で、相続人が持分(社員の地位)を相続して社員となる旨を定めておくと、社員が死亡した場合には相続人が社員となり、会社を存続させることができます。前もって定めておくことが必要で、社員が死亡した後に定款を変更しても相続することはできません 6。
今回の事例では、相続の特則を定款で定めていなかったため解散となりましたが、仮に特則があればBの妻が社員となることができました。そのまま相続人が社員として事業活動を続けることもできますし、他の者に社員の地位(持分)を譲渡して社長を変わることも可能です。
なお、定款の内容は、上記のように「相続人が当然に社員となる」以外にも、「相続人の承諾を要する」「他の社員の承諾を要する」定めにするという選択肢もあります。
定款のバリエーションと文言の一例
相続人の承諾 | |||
必要 | 不要 | ||
社員の承諾 | 必要 | A | B |
不要 | C | D |
A:「社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、他の社員の承諾を得て持分(社員の地位)を相続して社員となることができる」
B:「社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、他の社員の承諾を得て持分(社員の地位)を相続して社員となる」
C:「社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は、持分(社員の地位)を相続して社員となることができる」
D:「社員が死亡した場合には、当該社員の相続人は持分(社員の地位)を相続して社員となる」
※上記は定款の一例です。会社の実態に合わせて内容や文言は変える必要があります。
社員を複数にしておく
社員が2人以上いれば、万が一誰かが亡くなったとしても他の社員がいるので、会社を存続させることができます。本事例では、例えばBと共にBの妻が社員となることが考えられます。
ただし、社員が2人ではデッドロックに陥る可能性があります(合同会社の落とし穴1参照)。
そこで、実際の業務を担当する業務執行社員を1人だけにする方法があります。業務執行社員のみが経営の決定権限を持つので、意見の対立による経営停滞を回避することができます。
業務執行社員が亡くなった場合には、残った社員が業務執行を担当することになります(業務執行社員に関する定款が変更されたものとみなされます:610条)。ただし、業務執行社員の変更登記が必要となる点に注意が必要です。
合併・事業承継などで事業を引き継ぐ
上2つの対策は、社員が亡くなって会社が解散する前に実行しておく必要があるものでしたが、解散してしまった後にできる対処方法もあります。
それが、合併や事業譲渡等によって、他の会社や個人事業主に事業を引き継ぐことです。
他の会社に吸収合併してもらったり、個人事業主(例えばBの妻)が事業承継を受けることによって、「合同会社アプリ作るぞ」のアプリやシステムなどの資産、従業員などをそのまま引き継いで事業を継続することが可能になります 7。
今回の事例では、大ヒットゲーム「カメラ&ドラゴン」の資産価値に着目した企業による、合併・承継先争いが繰り広げられるかもしれません。
ただし、合併や承継先が必ず見つかるとも限りませんし、事業の引継をする場合も債権者への告知期間(660条、793条、789条など参照)等があるため、直ちに事業を再開できるわけではありません。あくまでも事前対策ができなかった場合の救済手段として考えておくのがよいと思います。
最後に
一人会社の合同会社で社員の死亡によって起こり得る問題と対策について、簡単に解説をしてきました。
人は必ず亡くなる以上、「何か」が起こってしまう前に定款でできる限りの対策を講じておくことが、残された家族や従業員、せっかく築いた会社にとっても大事なことなのだと思います。
安心して経営をするためにはまず足元(定款・社内システム)を万全にする必要があります。
「こんな会社にしたいのだけど、どういう定款にすればいいのか?」
「今の会社の定款に問題はないだろうか?」など
気にかかることがありましたら、お気軽にご相談ください。
【 脚 注 】
- 実在の会社名を避けようとすると、どうしても変わった名前になってしまいます。。 ⮥
- 「解散」と「倒産」は異なります。大雑把に言えば「解散」は会社を消滅させること(厳密には解散後の清算結了などによって消滅)で、「倒産」は経営が破綻してお金が払えなくなることです。倒産して営業活動をできなくなることで解散することはありますが、解散するのは必ずしも倒産した場合に限られません。本件のように社員がいなくなった場合や、後継者がいないために事業を畳む場合も会社を解散します。なお、法律学では「解散後の清算(再建)手続」のことを「倒産手続」と言うこともあります。 ⮥
- 例外として、合併による解散の場合は清算手続を経ずに消滅し、破産による解散であれば破産手続に移行します。 ⮥
- なお、株式会社においても取締役や役員が死亡した場合には、相続人が取締役や役員になることはありません。その人の能力・資格・人格等に着目して役員に任命されているからです。 ⮥
- 株式会社では経営者=株主とは限らないので株主の経営能力は必ずしも重要ではありませんが、持分会社では経営者=出資者なので出資者の経営手腕が会社運営に直結します。 ⮥
- 前もって定款を変更していたかのように偽装して相続人を社員として登記すると、公正証書原本不実記載等の罪に問われるおそれがあります(刑法157条1項)。 ⮥
- もっとも、資産や負債、雇用関係などをどの範囲で承継するかは契約時期や契約内容によって異なります。 ⮥