なぜ会社は株主に出資金を返還してはならないのか?
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株式会社・有限会社・合同会社(以下「株式会社等」と言います)に出資したお金(出資金)は、返還してもらうことができませんし、会社は出資した人に出資金を返してはいけません。
なぜなら、株式会社等の出資者(=株主・社員 1)は、間接有限責任だからです。
間接有限責任とは何か、なぜ出資金の返還ができないのか、その理由を解説します。
目次
間接有限責任とは?
定義は?
間接有限責任とは、出資者は、会社に対して一定額を出資する(お金を払う)義務はある 2が、会社債権者に対してお金を払う義務はないことを言います。
お金を払う義務があるのは一定限度まで(有限責任)で、会社の債権者ではなく会社に支払う義務がある(間接責任)ということです。
出資者とは?
株式会社等の出資者は、会社にお金を提供する代わりに株式や持分をもらう者のことです。株式会社や有限会社であれば株式をもらって株主となり 3、合同会社であれば持分をもらって社員となります。
出資分のお金を全額支払うことで出資者になるので「後でお金は払うから、先に株式だけ渡して」と言うことはできません 4。
逆に、会社からも「先に株式だけ渡すよ。お金は1年後でいいから」と言うことはできません。
会社債権者とは?
会社債権者とは、会社にお金を貸したり、商品を仕入れる契約をしたり、土地や建物を貸している人など会社に対してお金や物、サービスを提供するよう請求する権利(債権)を持っている者を指します。
銀行や取引先の企業などが会社債権者にあたります。
出資者がお金を支払うのは最初だけ
出資者は、最初に出資する際に会社に対してお金を払うだけで、その後は会社や会社債権者に対して金銭的負担をすることはありません。
仮に会社にお金がなくなり倒産したとしても、持っている株式や持分の価値がゼロになって損をするだけで、出資者が会社債権者に弁済する義務はありません。
会社が100億円の借金を抱えて倒産した場合でも、100万円の出資者は最大でも100万円の損をするだけで、会社の借金については返済義務を負いません。
会社債権者から「不適切な経営者を選んだ株主にも責任がある!」と言われても、その損失を賠償する義務は負わないのです 5。
株式会社等の出資者はいずれも間接有限責任なので、リスクを最小限にしつつ会社に投資することができるのです 6 7。
間接有限責任と出資金返還との関係
株式会社等には間接有限責任の出資者しかいないので、会社債権者は会社が持っている財産から支払いや借金の返済などを受けることになります。また、社長の財産と会社の財産も別なので、社長個人がいくら財産を持っていても法律上は関係ありません 8。
ですから、債権者にとっては会社がどれだけ財産を持っているかが非常に大事になります。
会社の財産は、出資金とそれを元に事業をして得られる財産が中心を占めます。もし会社が出資金を自由に出資者に返還してもいいとすれば、会社の財産はあっという間になくなってしまうおそれがあり、会社債権者は困ってしまいます。
したがって、原則として、会社財産を当てにする債権者を保護するため、株式会社等が出資金を出資者に返還することは認められていないのです 9。
まとめ
株式会社等が出資金を返還できない理由は、出資者の負うリスクを制限することで不利益を被る会社債権者の保護を図るためです 10。
会社債権者が安心して取引できる会社でなければ、誰も取引したいと思わないので会社は潰れてしまいます。会社債権者の保護が結果として出資者や会社の利益にもなるのです。
「それでもお金を返してほしい!あるいは、出資した分のお金を回収したい!」という方のための資金回収方法は、改めて解説します。
参考文献
【 脚 注 】
- 法律上「社員」とは、会社の従業員のことではなく会社の出資者のことを指します。本記事において以下同じ意味。 ⮥
- 厳密には、お金を払う(現金出資)だけでなく、パソコンや車や不動産、株式などの物を出資する現物出資という方法もあります。本文では分かりやすい現金出資を念頭に置いて説明しています。 ⮥
- 有限会社の出資者は、平成18年から有限会社も株式会社(特例有限会社)となったことに伴い、「社員」から「株主」へと変更になりました。 ⮥
- 会社法34条1項(発起設立における出資の履行)、同209条(株主となる時期等)等を参照。 ⮥
- 一見当たり前に思うことかもしれませんが、出資者は会社の所有者です。会社が倒産したときには、所有者にお金を支払ってもらいたいと考えることは不自然ではありません。盗難車で交通事故が起きたときには、事故を起こした泥棒だけでなく、車の持ち主にも損害賠償請求したいと考えるようなものです。 ⮥
- ただし、現実には譲渡制限株式会社の株主が連帯保証人となるケースも多いので、必ずしもリスクが少ないとは言えません。なお、出資者たる個人が事業のための貸金等を保証する場合については、2020年までに施行される改正民法により特別の規制が課される見込みです。 ⮥
- 「間接有限責任」のほかにも、「直接有限責任」や「直接無限責任」という出資者の責任形態もあります。現在の日本の法律では、合資会社(無限責任社員のみ)、合名会社(無限責任社員+直接有限責任社員)、組合(無限責任のみ)などの組織形態があります。 ⮥
- もっとも特に中小企業では、債権者が経営者個人と連帯保証契約(民法446条~)を締結したり、経営者が会社に事業資金を無利息で貸し付けたり等、個人と会社の財産関係が完全に分離されているわけではないのが実情です。 ⮥
- 直接責任社員のいる合資会社・合名会社では、出資の払戻しが認められています(会社法624条)。 ⮥
- その他にも債権者を保護するためのルールとして、会社は出資金のうち一定の金額を「資本金」としておき、会社の純資産が「資本金+α」の金額を超える場合でなければ出資者に配当金の支払い等をしてはいけないというルール(会社法446条、461条など)や、債権者が会社の財務諸表などを閲覧できるルール(会社法442条3項)もあります。 ⮥